故・坂本龍一氏が、森と人がともに生きる社会を目指して創立した「more trees」(モア・トゥリーズ)という森林保全団体がある。
国内16ヵ所(12地域)で地域と協働して森の保全活動や「都市と森をつなぐ」様々な活動を行っている。
木材の取り扱いを生業とするもののなかで「more trees」は言わずと知れた存在ではあるが、私の中では高知県梼原町が協働で取り組みをしているようだ、という程度の認識だった。
桜が咲き始めた今年3月後半、高知林業大学で講師をしている峯本さんという方から、1通のメールを頂いた。
メールには、2008年にmore treesとパートナーズ協定を結んだ中土佐町大野見の森が、持続可能な森林整備として皆伐予定であること、協働の森シンポジウムでパネリストとして登壇していた戸田商行の発表からヒントを得て、一部の桧をもくめんに加工してPRしたいという相談が記されていた。
私は、是非お話しをしたいと返事をした。
後日ご来訪された峯本さんは、元須崎森林組合で勤務された経歴をお持ちで、現在も森林整備をしながら大学で教鞭を取っていらっしゃる根っからの林業家であることが分かり、意気投合。
そして、お話を進めているなかで峯本さんが鞄からある雑誌を取り出された。
取り出されたのは、2008年の秋に発行された「switch」
言われるままにページをめくると、LOUIS VUITTONのカバンを持った坂本龍一氏が、綺麗に整備された静謐な中土佐町の森に佇んでいた。
なんと豪華で、刺激的で異質感半端ない風景だ!
“この夏、お盆終盤のとても暑いさなかに、坂本龍一と深澤直人は高知に短い旅をした。モア・トゥリーズの二つめの目の森の視察のため中土佐町という海辺の町へ。それから山間部の梼原町(ゆすはらちょう)へ。梼原には、モア・トゥリーズの森第一号がある。
モア・トゥリーズの代表としてその二つの森を視察するほかに、坂本には、高知県の尾崎知事と会談し、第二号の森のための調印式を行うという重要な目的もあった。また、深澤直人には、モア・トゥリーズの森で伐採される樹をどのように活かしていくか、間伐材を利用した地場産業のビジネスモデルについてのプレゼンテーションを行うという大切な役目があった。
県庁では大勢の職員と地元報道陣が坂本、深澤を出迎えた。尾崎知事、中土佐町の池田町長、地元森林組合の下元組合長ら、四者による調印式が行わられ、その後深澤直人によるプレゼンが行われた。”(switchより引用)
文中から、当時の高知県の熱狂が伺えるが、それには理由がある。
高知県は県土に占める森林割合が84%と全国一位、人工林率が66%で全国2位という森林県。画一的で大規模な植林が続けられた結果、過疎化や木材価格の低迷もあり、手入れが行き届かない放棄林が増えていた。
密植されたままの放棄林は、日照不足で下草が生えず、土壌の流出や、川や海の生態系への悪影響など生活環境に関わる深刻な問題となる。
高知県は2003年に全国の自治体で初めて森林環境税を導入するほど、危機感を持っていたからだ。
そんな中での、more treesとの協定。願ってもない話だったことが伺える。
”モアツウリーズの第二の森が広がる麓のある神社で地鎮祭が厳かに行われ、それから急斜面に広がる森へ。3年かけて70ヘクタールの人工林を間伐していくという話を、地元森林組合の若者が説明してくれた。(作業はこの翌日から早速スタートした)”(switchより引用)
本文中に登場する坂本龍一氏を森へ案内し、説明をした「地元森林組合の若者」
この若者が、目の前にいる峯本さんだった。
撮影もお手伝いされたそうで、懐かしそうに当時のお話もして下さった。
そう、峯本さんは調印式以前から現在までずっとこの森に携わってきた方なのだ。
今回、この森の地主の方が森の伐採を希望されたとのこと。
現在は、中土佐町の森林整備からは離れられているものの、more trees を通じて中土佐町の事を少しでも多くの方に知って頂き、長い年月お世話になった地元の方々に、少しでも恩返しができればと語る峯本さんからは、実直さと、この森に関わってきた誇りが伝わってきた。
さて、木の成長には途方もない時間がかかる。
切り出せるようになるまで最低でも50年は必要だ。
ビュンビュンというの擬音がびったりくるくらい、ものごとの進化が早い現代社会において、信じられないほどゆっくりした時間の流れかもしれない。
山は長い時間とともにあり、次世代に託す仕事でもあり、それを支える人がいる。
そんな森のこと、中土佐町のことを「もくめん」に形を変えることで少しでもお役にたてるなら、峯本さんの気持ちに応えたい!微力なのは承知の上で、心からそう思った。
責任は重大だが、こんな光栄なことはない。
そして先日、中土佐町の森に出かけた。
今も月に一度中土佐町に通い、清掃活動などに協力している峯本さんの案内で山へ登る。
伐採作業は順調に進んでいた。
伐採の本番は、5/19(日)
高知林業女子会という団体が、伐採を行う予定だったが、2回雨で流れている。
5/19(日)は所用で参加できない私のために、この日リハーサルで桧を1本切り倒してくれた。
伐採した木材と枝葉は弊社に運んでもらい、木毛(もくめん)とエッセンシャルに加工し、6月に東京ビックサイトで行われるインテリアライフ展でお披露目する予定だ。
私達が幸せに生きていくうえで必要な環境は何か、未来の森を考える機会を作りたいと思っている。
インテリアライフスタイル
2024年6月12日(水)~14日(金)
東京ビックサイト 西1・2ホール・アナトリアム
https://interiorlifestyle-tokyo.jp.messefrankfurt.com/tokyo/ja.html